解体伸書

三菱伸銅って「どんなものを作ってるの?」「どんな人が、どんな思いで働いてるの?」そんなさまざまな疑問にお答えするのが「解体書」。
ここでは三菱伸銅の生の姿をご紹介します。第2回目は漁網用銅合金「UR30」の拡販奮闘記です。

三菱伸銅が開発した漁網用銅合金UR30。世界的食料危機を救う可能性がある、この画期的な銅製品は今非常に注目されています。
解体伸書の第2回目は、人と社会と地球のためにUR30を拡販する営業さんにスポットを当て、パイオニアならではの苦労や手応えなどを製品紹介の展示会の会場で伺いました。

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増田 勝彦(ますだ かつひこ)
  • 顧問
  • UR30の営業戦略の全体統括、企画立案に携わる。
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鶴丸 俊和(つるまる としかず)
  • 技術部 開発営業グループ グループ長
  • 部門の責任者として実務を統括しながら、実際の営業活動にも幅広く関わる。
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髙木 賢一(たかぎ けんいち)
  • 技術部開発営業グループ シニアマネージャー
  • 主に欧米を中心に海外と絡む案件の戦略・販売を担当する。
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川村 創太(かわむら そうた)
  • 技術部 開発営業グループ 主任
  • 日本国内、アジア地域を担当し、UR30の営業活動に携わる。

銅の新たな用途を開発・全世界に紹介

UR30との関わりについて教えてください。

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増田

UR30の販売開始は1998年のことになりますが、私は当時、三菱マテリアルグループとして、銅の需要の喚起を目的とするグローバルな業界団体、国際銅協会(ICA)を通したUR30のPR活動に関わりました。このICAでの活動がきっかけとなって、養殖業の先進国・チリの国営銅会社コデルコ社などをパートナーに海外でのUR30を使った生簀の拡販に携わりました。

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髙木

私はICAの技術分科会を担当していたときにUR30に携わる機会を得ました。「養殖用の漁網を銅合金でつくる」というUR30による当社の提案は、「銅の新たな用途として非常に面白い」と世界各地の銅メーカーだけでなく水産業界や政府関係機関からも関心が寄せられ、実用化に向けた試験が繰り返されました。

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鶴丸

私の場合は、2009年にコデルコ社の傘下である ECOSEA社向け UR30の輸出業務を担当したことがはじまりでした。その当時、チリに年間約1,000tのUR30を販売していました。

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川村

2009年に入社して配属された開発部でUR30を知り、技術部に異動してからは他の製品も含めて製造コストの削減、在庫量の適正化といった業務に従事しました。現在は、営業を担当するグループへと異動し、国内外の養殖業者の皆さまへ直接UR30を紹介するという役割を担っています。

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順調ではなかった道のり

UR30の拡販にはどんな苦労がありますか?

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鶴丸
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私たちはあくまでも銅合金のメーカーですから、水産業、養殖業という世界とは、まったく接点がありませんでした。養殖業の知識はもちろん生簀や編網についての知識もなく、それぞれ基本的なレベルから勉強しなくてはなりませんでした。生簀や網にもさまざまな種類があって、その地域の海洋環境に適したもの、規制に合致した生簀が使用されています。求められるものを銅合金線という新しい材料で編み上げること、あわせて生簀メーカーをはじめとするサプライチェーンをゼロから構築しなくてはならないことなども大変でした。

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川村
写真ハワイに設置された次世代沈降型生簀(InnovaSea社製)

年々拡大する養殖のグローバル市場では、これまでにない形状をした生簀やシステム、それに使われる新素材がどんどん生まれています。新素材の実用化イコール「日々の改善」ですから、実際の養殖業者さんやエンジニアと相談しながら試行錯誤を繰り返さなくてはなりませんでした。苦労の末、生簀の長寿命化や使い勝手の改善が達成できたときは本当にうれしいですね。ただ、営業の最前線にいる私は今も、大きな問題と向き合っています。それは、初期投資の壁です。特に日本では、零細な規模の養殖業者の方々が多いため、初期投資の負担軽減が普及への大きな課題になっています。

写真ハワイに設置された次世代沈降型生簀(InnovaSea社製)

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鶴丸

「銅の抗菌作用によって魚が早く成長するため餌代といったランニングコストが減らせますよ」だとか、「過去には、初期投資を1年で回収できるという事例もありますよ」だとか、こうしたUR30のメリットを一生懸命に説明すると、多くの方に理解はしていただけます。とはいえ初期投資の壁を乗り越えるのは、そう簡単ではありません。そこで、リースによる提供など、初期投資がネックになっている方にも導入しやすいビジネスモデルの検討も始めました。

写真鹿児島大学と共同で得た試験結果(成長速度が25%以上も向上)

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増田

海外は、日本と比べると養殖業の経営規模が大きいため、初期投資は大きな問題になりません。たとえば日本では、一辺が10m程度の四角い生簀が1基ずつ導入されるのが一般的ですが、海外では直径20〜30mの円形をした大きな生簀が、何十基単位でひとつの養殖場に展開されます。ですから、初期投資だけでなくライフサイクル全体からUR30を評価してもらいやすい状況にあります。ただ、こうして銅合金を使う漁網の優位性が浸透するに伴い、各社から類似品が提供されるようになっています。万が一、いずれかの銅合金で、事故が起きてしまうと、「漁網に銅は使えない」という評判が立ち、私たちがトップランナーとして積み上げてきた銅合金の信頼がたちまち損なわれてしまいます。そうならないよう常に情報収集や日々の改善は欠かせません。

写真中国の台州に設置された大規模生簀

なぜ、UR30の挑戦を継続できたのでしょう?

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髙木
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元を辿ると、漁網に銅合金を使うアイデアは1980年代に出されて、実用化に向けたテストがあちこちで行われました。しかし、「1年以内で銅合金網が破れ、魚が逃げ出す」などの問題により、製品化が進まず、ほとんどの企業が見向きをしなくなりました。そうした中で三菱伸銅は、UR30の可能性を見据えた経営トップの後押しもあり、唯一、漁網用銅合金の開発を地道に続けてきました。

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増田
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将来へ向けて魚に対するニーズが大きく膨らむ一方で天然魚は枯渇していきますから、養殖業に大きな期待がかかります。そのため効率の良い養殖業を実現するために、UR30のような特徴を持つ銅合金が不可欠なのです。

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写真世界の漁業・養殖業生産量と今後の予測

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鶴丸
写真寄生虫が発生すると薬剤の使用により費用や魚にストレスがかかる。

養殖業が世界的に拡大していく中で、生簀用の網としていろいろな素材が試されることになるでしょうが、いずれの素材にも、「海洋生物の付着」「使用後の廃棄処理」「鮫による破損」など、さまざまな面で弱点があります。そうした弱点を払拭した素材がUR30なのです。「私たちがUR30を養殖業者の皆さまにしっかりと提供することが養殖業の発展につながるのだ」という想いを持って仕事に取組んでいます。

写真寄生虫が発生すると薬剤の使用により費用や魚にストレスがかかる。

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川村
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養殖業の発展への貢献はもちろんですが、UR30は地球環境の保全にも貢献できる素材です。具体的には、藻や海洋生物が付きにくいわけですから、それらによって海を汚染することがありません。実はこの海洋投棄や余分な餌の投与によって、海底の汚染が進み養殖効率が悪化するんですよ。実際に海外では、このような環境汚染に対する目は厳しくなっていますし、いずれ日本もそうなるでしょう。UR30は使用後の網を買い取り、新たに再生することで100%リサイクルを実現していますから、「海を汚さず、しかも資源を節約できる」というサスティナブルな養殖に貢献できるんです。

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髙木

社会や養殖業の貢献への使命感は、UR30に関わるメンバーに共通する想いです。それに加えて私は、UR30の事業が実を結びつつある段階まで育てることができた要因として、「三菱伸銅の企業文化」も挙げたいと考えます。組織として、銅の新たな用途の提案に挑戦する、つまり提案型営業を志向する風土を持っていることが、漁網用銅合金という未知の市場を開拓する力となっているのではないでしょうか。

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川村

私も髙木さんの意見に同感です。組織としての事業計画の立案から個人としての日常業務の進め方まで、あらゆる場面で「新しい挑戦を良しとする気風」が、当社には確実に存在しています。

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チャレンジは続く

UR30のこれからについて想いを聞かせてください

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髙木
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キッチンのシンクにはステンレスが、窓枠のサッシにはアルミが使われるように、養殖の網には銅が当たり前に使われるようにしたいですね。そうした姿に向けて、私たちメーカーとしては、「求められる量を確実に供給する」「使い終わった銅を溶かして、もう一度生まれ変わらせる」といった技術をより磨いていかなくてはなりません。

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川村
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UR30を通して日本の養殖業で働く人たちとその家族が幸せになるためのちょっとしたお手伝いをするつもりで頑張っていきます。今、日本国内の養殖業は、従事者の高齢化や後継者不足に悩まされています。その根源にある問題が、安定的な収益を得るのが難しいことです。私たちが、UR30を拡販していくことで、養殖業の収益拡大や生産性の向上につながると嬉しいですね。

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鶴丸
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生簀の網に使われる素材としては、化繊、亜鉛メッキ鋼線などもあるわけですが、持続的な養殖業のために、銅合金UR30はベストな素材のひとつです。養殖業の未来のために、1人でも多くの養殖業者の皆さまにUR30のメリットを届けていきます。

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増田
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日本国内では、養殖業の生産性向上や飽和状態にある沿岸から沖合へのシフトが求められています。一方、海外においては、中国や韓国などで国策による大規模な養殖業の育成が進められつつあります。今まさに、漁網用銅合金の市場は一気に膨らんでいこうとしているといえます。好機を捉えて、私たちが長年にわたる取組みによって蓄積してきたノウハウを武器に、漁網用銅合金の市場を着実に切り拓いていきたいと思います。

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髙木

振り返ってみると、漁網用銅合金の開発を打ち出した時、社内にも業界内にも、「銅合金を自動車でもエレクトロニクスでもなく、漁業に使うの?」という驚きがありました。これまで銅合金の開発は、熱や電気の伝導体としての用途が中心で、UR30に見られるような銅の殺菌性に焦点をあてた用途はあまり追求されてこなかったからでしょう。

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増田

銅の殺菌性は、古代ローマでも病気の治療に銅が使われたという記録がありますが、2008年に米国環境保護庁が銅合金の殺菌性表示を認可するなど、21世紀になっても改めて評価が行われています。このように銅は、「古くて新しい素材」なのです。私たちもUR30を普及させることで、「銅に潜む新しい価値」を世の中にどんどん発信していきたいですね。

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亜鉛めっき鋼線いけす(設置後4ヶ月経過)
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UR30いけす(設置後2年経過)

UR30とは

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近畿大学の防汚性フィールド試験、実験室研究のなかで、防汚性、耐久性に優れているとされた当社開発の銅合金UR31(Cu-Znベース)をもとに開発された漁網用銅合金。銅の持つ抗菌力によって、藻や貝類の付着を低減し、網の目詰まりによる酸欠、寄生虫の発生を抑えて、養殖魚の成長を促す。日本国内、チリ、オーストラリア、ハワイ、中国などで、18年以上にわたり400基以上の養殖用漁網として採用されている。

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