解体伸書

三菱伸銅って「どんなものを作ってるの?」「どんな人が、どんな思いで働いてるの?」そんなさまざまな疑問にお答えするのが「解体書」。
ここでは三菱伸銅の生の姿をご紹介します。第1回目は独自開発合金である「MNEX10」の開発ストーリーです。

三菱伸銅が三菱マテリアルと連携し次世代の合金開発を目指すFAST(Future Alloy STrip)プロジェクトから生まれた、世界初の耐応力緩和特性に優れるCu-Zn系銅合金、MNEX10。
誰も思いつかなかったアイデアをどうやって形にできたのか。プロジェクトに関わった3人のメンバーに、三菱伸銅の川村が聞いてみたいと思います。

※耐応力緩和特性:高温で優れたばね性を示す指標。
ある材料に対して、ばね性を発揮する弾性範囲内の負荷(耐力に対して 80%の負荷)をかけて150℃の高温環境下で 1,000 時間保持した後に、どれだけばねが弱るかを示す。
写真
牧 一誠(まき かずなり)
  • 開発当時の所属:三菱マテリアル株式会社 中央研究所 金属材料研究部
  • 担当した業務:合金開発統括
写真
飯野 諒(いいの りょう)
  • 開発当時の所属:三菱伸銅株式会社 若松製作所 技術部 開発技術課
  • 担当した業務:合金の実機試作
写真
山下 大樹(やました だいき)
  • 開発当時の所属:三菱伸銅株式会社 技術部 北本研究グループ
  • 担当した業務:合金の研究試作
写真
聞き手:川村 創太(かわむら そうた)
  • 三菱伸銅株式会社 技術部 技術グループ
FAST PROJECT(ファストプロジェクト)とは
写真

はじまりはお客様のニーズ

写真
川村

はじめに、3人のMNEX10への関わりを教えてください。

写真

プロジェクトでは銅合金開発を統括する役目を担いました。

MNEX10の開発は、自動車ワイヤハーネスメーカーや端子メーカーから銅合金についてのニーズをヒアリングすることからスタートしました。現状、車載コネクターの端子には、コルソン系合金(Cu-Ni-Si合金)が使用されていますが、強度、導電性、耐熱性などは同程度の性能を持ちながら、よりコストを低減したいというニーズがあることがわかり、その実現に取組んだのです。

お客様の二-ズを引き出すために、まだ提案もできない段階から、何度も客先を訪問し、ヒアリングさせていただき、営業担当には負担をかけました。しかしそのおかげで、客先ニーズをしっかりとらえた合金を作ることができました。

写真

写真
山下

私は、実験室レベルでMNEX10の基本組成の開発にあたりました。

MNEX10では、コストを抑えるために亜鉛を基本に、それぞれの添加元素をどのくらい配合すればお客様のニーズに合った性能が発揮できるのかということに取組みました。

「低価格でエコロジー性が高く、強度、導電性、耐熱性といった特性のバランスも優れている」というMNEX10のコンセプトを聞いた時、「かなり売れるのではないか?」と感じましたね。

写真

写真
飯野

山下さん達が見つけた基本組成をモノづくりに落とし込むのが私の役割でした。具体的には、量産する際の製造条件の確立を模索しながら、お客様に性能を評価してもらうための試作品を実機で製作する業務に携わりました。

写真

生みの苦しみを乗り越えて

写真
川村

MNEX10ができるまでには、どんな苦労がありましたか?

写真

「耐応力緩和特性はコルソン系合金に匹敵し、強度は500~650MPaで」といった形で、コルソン系合金の性能を確保しながら、その中でコストダウンするために亜鉛や他の添加元素をどのくらい配合するのか? その配合でいくなら、製造工程はどうあるべきか?

2年近くの試行錯誤があって、適切な配合をだいたいつかむことができました。その後、飯野さんや山下さんに参加してもらって、実際に製造するための調整と最適化を繰り返しました。

写真
飯野

配合の目途が立ったとはいえ、私たちが関わってからも苦労の連続でした。ラボレベルでは、求める特性を出せる配合が見つかったとしても、それを製造現場に展開すると、再び問題が生じるのです。

亜鉛と錫、ニッケル、鉄、リンといった組成からなる世界初めての合金でしたから三菱マテリアルグループはもちろん、他社においても参考となる例がありませんでした。そのため製造条件の作り込みや現場担当者への浸透には予想外に大変でした。

写真
山下

実験で特性が出るのはわかっていても実際の製造現場で、同じ結果が出るとは限りませんからね。

決められた期限までにお客様に試作品を提出するためには、飯野さんの製造現場と私の実験室で、かなりスピーディにやりとりをしなくてはならないこともありました。

時には、実験室で完全な答えを得てから製造現場に展開するのにかかる時間が惜しくて、ある程度の答えが見えたら、実験室と製造現場で同時並行で作業を進めたこともありました。

また私個人でいうと、これまでは製造に近い職場に所属していたので、合金開発の知識をイチから学ばなくてはいけないという大変さも体験しました。

写真耐応力緩和特性を評価中のMNEX10。冶具が変色するほど試験を繰り返した

写真曲げ加工性の評価のために、W形状に曲げられたMNEX10のサンプル。試行錯誤の様子がうかがえる

写真
川村

生みの苦しみを、乗り越える力となったものは?

写真

企業の研究開発というのは、求められる性能とコスト、与えられた期間やお金など、様々な制約条件をクリアしながら何ができるかを必死で追求しなくてはならない仕事です。

そうした苦しみを乗り越えて目標に到達するには、「世の中に役立つものをなんとしても作るんだ」という想いを強く持ち、モチベーションを高く保ち続けなくてはなりません。そうしたモノづくりへの想いは、飯野さんや山下さんも一緒ではないでしょうか。

写真
飯野

おっしゃる通りです。私の中にも「世界初への挑戦」「自分の手がけた製品がたくさんの人の役に立って欲しい」という想いがあったからこそ、モチベーションが生まれ、それを原動力に製造現場の方達との交渉、協力を得て、量産にまでこぎつけることができたと考えています。

写真
山下

私もMNEX10を任された時から、常に高いモチベーションを持つことができていました。

世界初ですから、簡単ではないとわかっていました。けれども世界の自動車に自分の仕事の成果が載るわけですから、大きなやりがいを感じました。

写真日本金属学会会報「まてりあ」のMNEX10の記事。「金属工業に関する独創性に富む新技術・新製品の技術開発」とされ、日本金属学会より技術開発賞を受賞した

写真MNEX10を紹介するプレゼン資料。既存の黄銅より突出した耐応力緩和特性を有することがよくわかる

MNEX10のチャレンジは続く

写真
川村

2社の連携は、どんな効果をもたらしましたか?

写真

伸銅品の開発において、三菱マテリアルは研究機能ですから、開発した合金を実際に実機で作るとどのような問題が発生するか?についての経験は多くありません。でも今回は、三菱伸銅と一体となって合金開発や実機試作を行うことにより、無駄なトライ&エラーを省いてスピーディな開発ができました。

写真
飯野

私も、2社の連携によるシナジー効果を強く感じました。人財交流をしたり、情報や設備を共有したりする中で、お互いの持ち味を最大化できたからこそ、世界初を実現することができたのではないでしょうか。

写真
山下

研究と製造が密につながることで、会社としてばかりでなく、個人として得られるものも少なくなかったはずです。私も、牧さん、飯野さんをはじめとするプロジェクトメンバーとのやり取りを通じて、たくさんのことを学び成長することができました。

写真
飯野

三菱伸銅は、MNEX10の前にも多くの合金を開発してきました。それらの中には失敗も少なくありません。実は今回が私自身にとってメインで取り組む初めての開発だったため、日の目を見なかったプロジェクトを考えると、責任も重かったですが、MNEX10の成功によってこれまでの努力が報われた思いがします。

写真MNEX10の圧延コイルの前で、開発当時の思いを語る3人

写真
川村

これからのMNEX10への想いを聞かせてください。

写真

現在、高性能・低価格を特徴とする新しい銅合金MNEX10の用途は、当初の開発対象だった車載以外の分野にも広がっています。営業活動を進める中で、民生分野でのコルソン系合金やりん青銅からの置き換え、具体的には照明に使われるLED用の端子や産業機器向けの端子、ブレーカーの接点などでも引き合いが出ています。

写真
山下

開発中に想定していた車載分野以外で使われるようになっているというのを聞くと、なんだか自分の子供が育っていくようで、とても嬉しいですね。

従来にないバランスの良い特性を持っている銅合金ですから、用途はまだまだ広がると思います。

私がさらなる可能性を感じるMNEX10のポイントは、エコロジー性です。まず、製品においては優れた耐応力緩和特性により、端子の小型化ができるため、材料の使用量を削減できます。さらに、原料としてレアメタルを使っていない上に、亜鉛を添加して銅使用量を1割も削減しています。

写真

MNEX10はコンセプトの段階から、制約条件として「ありふれた材料以外は使わない」を掲げてきました。

写真
飯野

それでいて、世界初の銅合金ができたのですから、「ごく普通の食材から、ここにしかない料理ができた」というわけですね。

写真
山下

材料の調達のしやすさは、ライセンス生産などによる、グローバル展開を考えると、大きな利点となります。

写真

そうですね確かに、MNEX10にはいろいろな可能性が広がっています。
自動車市場は成長しながら自動車の電装化も進んでいるので、車載端子の市場は拡大しています。高性能かつ低コストなMNEX10には大きなチャンスがあると思われます。

とはいえ、MNEX10が車載分野でも民生分野でも広く使われていくかは、これからが勝負。今後も両社が連携し一体となってMNEX10の魅力をワールドワイドにアピールしつつ、目の前のチャンスをものにしていきたいですね。

写真
川村

本日は、どうもありがとうございました。

写真3人の背景に飾られているのが、自動車用ワイヤハーネス。電力供給と信号伝達のために車内に張り巡らされ、先端の端子には多くの銅合金が使用されている

開発した合金のご紹介

写真
  • 名称:MNEX10(エムネックス・テン)
  • 組成:Cu-Zn-Sn-Ni-Fe-P
  • 用途:車載、民生用端子・コネクター、バスバー、電子機器用バネ、スイッチなどの接点材料
  • 形状:条製品(コイル状に巻かれた形状)およびリフロー錫めっき付条製品

図

このページの先頭へ戻る